イデオロギーとユートピア

カール・マンハイムの『イデオロギーとユートピア』
知識社会学の古典的なカール・マンハイムの名著だが、学生の頃にずいぶん何度も読んだことを思い出した。
ユートピアとは被支配者が現状の政治体制に対する批判として、架空の理想の国の物語を作り出すことである。
有名な著作ではトマス・モアの『ユートピア』や陶淵明の『桃源郷』の物語などが有名で、イエスの「神の国」もその宗教的表現であった。
ユートピアは現実への批判と超越とを人々に呼びかけるため、実現可能性の有無にかかわらず政府の弾圧や破壊工作の対象となり得る。
反対に支配者側の体制維持のための神話や幻想を含む物語はイデオロギーと呼ばれ、被支配者を抑圧支配する手段として宣伝される。
例えば旧共産主義体制で見られたマルクス主義や、戦時中の日本で強要された国家神道などはイデオロギーとして機能した。
イデオロギーは現状の政権や体制を維持するために唱えられるため、支配者にとって都合の良い幻想を含む理論とならざるを得ない。
真逆のベクトルにあるユートピアとイデオロギーだが、実は論者の立場が変わると容易に相互転化を起こすことがある。
平等や労働の尊重に基づいていたはずの共産主義のユートピアは、共産主義者が支配者になるとイデオロギーへと転化してしまった。
最近の新しい現象は、朝鮮や中国にルーツを持つ人間による支配を維持し正当化するための新たなイデオロギーと神話の発生のようだ。
野崎晃市(42)