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落合信彦 オイルマン伝説の終焉 3/3  LA INTERNATIONAL 2002.01月号



落合信彦 オイルマン伝説の終焉 3/3



「酒を絶ち、女を絶ち、タバコを絶って100歳まで生きるバカよりは、戦いに生き、死んでいった男たちのほうがよほど輝いている!」 落合信彦


最近、日本の若者たちの間で、外人部隊への傭兵志願者が増えていると聞くが、これは、実に悲しむべきことだ。



オイルマン(現国際政治コメンテーター)
として生きる藤原撃の証言




落合信彦 オイルマン伝説の終焉 1/3 『文殊菩薩 (ブログ板)』
落合信彦 オイルマン伝説の終焉 2/3 『文殊菩薩 (ブログ板)』


LA INTERNATIONAL 2002.01月号


LA INTERNATIONAL 2002.01月号  藤原 ああ、あなたの原稿にあった話だね。ヘリコプターで酔っ払いの男と鉱区上空を飛んだっていう話は、僕らオイルマンから見たら一発で嘘とわかる話だし、そんなヨタ話をいちいち検証しても時間のムダですよ。

奥菜 うーん。

藤原 僕もヘリに乗って鉱区上空を飛んだことはあるし、そういうのをルコネッサンス(偵察)というが、ヘリに乗ってあんな左右に振れるなか、一〇〇メートル以上も上空から地下二〇〇〇メートルの油層の有無がわかるわけないよ。

奥菜 そうでしょうねえ。

藤原 ヘリの偵察でわかるのは石炭があるかどうかぐらいで ── 石炭は地表に黒々と現われているから ──、私もヘリで油層地帯を飛んだことは何百回もあるが、石油の場合は地下の状況なんてわからない。最終的には地上に降り立って、岩石や地層を調べてみることだよ。

奥菜 ああ、確かに、BPの写真集とか見ると、地表の岩石を砕いて調べているところが載ってましたよ。

藤原 そうだろ。

奥菜 あと、落合はナイジェリアでは一〇〇メートルも掘らないで石油が出てきたって言ってましたよ。

藤原 えっ? あの国で一〇〇メートルだって、少なくとも二〇〇〇メートルは掘らなきやだめなはずだよ。

奥菜 最低で、一八〇〇メートルぐらいです。

藤原 そりゃ、ポール・ゲティ(アメリカのオイルマン、大富豪)の最初の自叙伝に書いてあったことだな。昔、ポール・ゲティが若い頃オクラホマで石油を発見したという物語を読んで、それを落合がネタに使ったらしい。あの辺じゃ、「石油が出ます」と言って水しか出ない土地を売りつける詐欺話が横行したけど、その頃のオクラホマのタルサに近い北東部では、確かに一〇〇メートルも掘ったら(浅いところの)石油は出るんだよ。だが、問題はそれからだ。


奥菜 ああ、そういえば、落合は(デビューして 最初の頃、オクラホマの石油業者と一緒にオイルビジネスをやっていた、つて言ってましたよ。
案外、落合の頭の中じゃ、石油の眠る地層は万国共通だっていう概念があったかもしれませんね。

藤原 「ゴツーと音がして」なんていうのはゲティの回顧録にあった話からとったんだろうね。


 ここで言う「ゲティの自伝にあった話からとった」というのは、氏が最初に話を聞かせてくれた時からの持論「落合のオイル話は、過去出たオイル本の寄せ集めだ」という説による。氏は落合の作品内に出てくる、オイルを当てたシーンの 元ネタ〟をこう推測していた。


 (談)落合は 『ジャイアンツ』とか『タルサ』などの映画を何べんも見たんだろうな。オクラホマ州のノタ郡やワシントン郡は詐欺師の天国と呼ばれ、一〇〇メートルぐらい掘れば石油は確実に出るが、一ケ月か二ケ月で水ばかりになる。発見の成功率は高いが、投資したカネはすってしまうんだ。

  ポール・ゲティはいくつも伝記書いているけど、最初の伝記ではオクラホマで石油を掘る現場を書いていて、どうも落合はその伝記を読んで、情景をそのまま写したんじゃ ないかな。「かすかな地嶋が感じられた」後で「まもなく黒い水が吹きあがって真っ黒に染めた」と書いてある。

 ポール・ゲティが十代の後半、オヤジと一緒にオクラホマに行って、タルサに近い所の情景を措いたのを読んで、そのまま石油発見の舞台背景に使っているんじゃないの。


 ゲティの書いた本のうち、『金持ちになるには』(原題『HOW TO BE RHCH』)にはオクラホマのオイル先駆者が「オイルを当てるのは運じゃない、三〇〇〇フィートの地中に石油があるかどうかを嗅ぎ分ける鼻がいるんだ」(P6)と力説するセリフが紹介されたり、ゲティが「生涯忘れられない瞬間」と回想するオイル掘り当てのシーンでは、原油が吹き出してきて熱いシャワーのようだったと描写している(P10)。

 何だか、どこかの本で読んだようなシーンだ。

 作中、佐伯と社員の間で新鉱区奪取方法を巡って激論するシーンでは、過去の鉱区入手に関して佐伯がこう説明している。

「(前略)それにメジャーや他のインデペンデントは今あんたが言ったような条件でくるにきまっている。もしオレ達が奴らと同じ条件で行ったら、せり合いになる。せり合いになったら必ず負ける。それはすでに北海とノース・スロープでの敗退が証明している。だから競争入札で一発で奴らの息の根を止めなきやならん」
(『ただ 栄光のためでなく』P366)


これも藤原氏によると──


(談) 北海にしてもノース・スロープにしても、競争入札だったのに、まるでオークションをしているような書き方してる。これもまったくひどい、当時の状況も何もわかってない。


氏は『ただ 栄光のためでなく』を最後にこう辞した。


(談) それから、落合は「ワイルドキヤツター」とか「サイズミックスタディー」とかいろんなカタカナ言葉を使っているから、素人はみんな騙されてしまうけれども。彼が 石油開発のイロハもわかってないのは明白で、彼のくだらない『ただ 栄光のためでな く』は彼にとって売れっ子になるための手品箱みたいなものだ。

まったく馬鹿馬鹿しくて読むに耐えなくて、僕はこの本 を捨てちまおうかと思ったけ ど、せっかくいっぱい書き込んであるから捨てないで持って帰ってきたんだ。あなたか ら会いたいっていう連絡があたから、ちょっと目を通し直してみたけど。落合のインチ キのひどさは名人芸だ。

 これで若い人たちが騙されても、これはエンターティメントだから仕方がないが、石油ビジネスに触れたこともない人間が勝手気ままにでっち上げたのに騙されてナイジェリアにでも出かけたら、罪作りだね。


 落合の作品世界では『ニューヨーク・タイムズ』に取り上げられるほど有能で、世界のメジャーオイル会社にさえ恐れられるという佐伯剛。作中のタイムズ記事内では彼をこう紹介していた。


 一攫千金の夢末だ消えず読者の大部分はプログレス・オイル・カンパニーという会社の名を聞いたことがないであろう。しかし、現在アメリカ石油業界はこの会社の話でもちきりである。その理由は同社が最近南米エクアドルで大油田の開発に成功したからだ。この成功によって同社はその名の通り大きなプログレス(進歩)に向って確実に動き始めた。

 同社の社長デヴィッド・フエインシュタインは今アメリカで最も鼻息の荒い男と言えよう。彼は言う。「これでメジャーだけが石油会社でないことがわかったろう。石油はあくまでギャンブルなんだ。
この真実を忘れたらオイル・マンは失格だ。私も含めてうちに名ギャンブラーがそろっている」彼の言う名ギャンブラーの一人が今回の成功の立役者となったゴウ・サユキである。まだ二十三歳の若者だが、この成功によって彼は同社の副社長に昇進した。まだキャンパスの臭いが抜けないような若者が、資本金五十万ドルの会社の副社長に抜擢されるのは異例中の異例と言える。しかし、考えてみれば舞台は生きるも死ぬも腕次第のオイル業界である。かの大スタンダード・トラストを形成したジョン・D・ロックフェラー一世がオイルに初めて手をつけたのは二十一歳の時であり、アンリ・デタディングがロイヤル・ダッチを作ったのが二十二歳の時だった。これらを考えればサユキの副社長就任はごく当り前のことかもしれない。

 最後にサエキに、今回の開発はメジャーに対する挑戦と見る向きもあるが、と水を向けると、彼はそのハンサムな顔に笑いを浮べて語った。

「日本にはヘビににらまれたカエルということわざがある。われわれとメジャーの関係はまさにそれなんだ。われわれはカエルであり、メジャーはヘビ、それも単なるヘビではなく必殺の技を持つ毒ヘビだよ。そのメジャーに挑戦するなんてあまりにおこがましすぎる」

 とは言いながらも、彼の笑いの裏には不可思議な自信が読みとれる。その笑いはあたかも「メジャーが毒ヘビならオレはマングースだ」と言っているようにも受けとれるのである。
 (『ただ 栄光のためでなく』P181~P182より編集)


 落合の作品世界内では、デタラメなセリフを言うオイルに無知な日本人が、メジャーに対抗できる名オイルマンとして 『ニューヨーク・タイムズ』相手に大威張りできるわけだ。


落合信彦、「オイルマン伝説」の失敗
── 応用から入った嘘話


 それにしても、落合の「オイルマン伝説」はどうしてこんなに出来の悪い稚拙な嘘だったのだろうか? 嘘をつく時になぜもう少し工夫をしなかったのだろうか。

 むろん、その理由は落合さんに聞かないとわからない。聞いでも答えてはくれないだろう。
だから、私が想像するしかないのだが、当たっていなかったら落合さんに申し訳ないので、落合さんにはぜひとも本当のことを語ってほしいと思う。

 落合の「オイルマン伝説」は三つのパターンから形成されていた。
①オイルメジャーと産油国との関係などの高度な政治話。
②オイルマンが日常どんな仕事をするかという、専門的な話。
③産油国の油田のある現場の実情、その国の年間オイル産出量、油層の存在する深度、油層地帯の地理、その国のオイル採掘の歴史等の基本的な話。

 このうち、①に類する話、『石油戦争』 に代表されるものは読んでみても、うさん臭さは感じない。②の『ただ 栄光のためでなく』類は私みたいなオイルの素人は騙せるが、藤原氏のようなプロは騙せない。が、
嘘としてはまあまあの出来だ。

『アメリカよ!』や『狼たちへの伝言』などに見られた③に類する話は子供騙しの出来だった。

 つまり、落合信彦という人物の持っているオイル関連の知識は、オイルの出る現場で採掘に関わっていた人物の持つレベルではない。「オイルの素人が本を読んでオイルマンになりすましている」という藤原氏の指摘はずばりそのものだと思うのだが、問題なのは落合がオイルマンならぬ「オイルマンだった男」になろうとした際に、何をしたか、だ。

 落合がオイル関連で初めて書いた本は『誰も書かなかった安宅処分』(七八年)だった。この本の中で、落合はオイルメジャーの動き、世界を支配すると言われたロックフェラー家等の、同じオイル関連でも高度な政治話を展開した。同書の参考文献は『オイル・パワー』『セブン・シスターズ』などの、かなり専門的な本だった。藤原氏は落合のオイル話を「過去に出たオイル話の寄せ集め」「オイルマンたちの書いた本を読んで、自分の実体験に模している」と辞したが、落合が経歴詐称を思い立ち、その「準備期間」であった七七年末~七八年中期までの間で、彼が『オイル・パワー』『セブン・シスターズ』を読んでいたことは事実だ。おそらく、オイルマンたちの書いた回顧録の類も〝参考文献〟としたことだろう。

 が、この時落合は、各国の年代別原油産出量、各国の油田採掘の細かい歴史、油田の現場が砂漠、沼地、山岳地帯のいずれに存在するのかといった地理的分布区分、各産油国における油層地帯の深度別分布等のオイルの基礎中の基礎を学ばなかった。落合の読んだ 『オイル・パワー』や『セブン・シスターズ』は半ば〝専門書″なので、基礎である産油国各国の詳細を書いてはいなかったのだ。アメリカの大学を卒業した三十六歳の男が、いまさら『各国要覧』『世界の産油国』といった基礎資料を読むのを面倒に思ったにしても、無理はないだろう。

 落合は「オイルマン伝説」を創り出す際に、「応用」のみを学び「基礎」をないがしろにしたのだ。それが落合に、国全体で日産一万バーレルもない六〇年代のエクアドルで「日産十万バーレルのジャイアンツを当てた」とか、油層地帯が沼地で、油層の存在深度が二キロ近いところに存在するナイジェリアで「砂漠の中を、百メートル掘ったらジャイアンツだった」だの、原油の日産が五万バーレルで、隣国チリに石油パイプラインが伸びているボリビアで「隣国ペルーにパイプラインが伸びているボリビアで、日産八万バーレルの油田の契約を交わした」だの、海上油田を開発はしていたが本稼動状態でなかった七〇年代初期のガーナで 「海上油田を当てて、エクソンに売った」等の、自らの手で経歴詐称を暴露するような発言をなさしめたの
だ。

 そしてそれは、落合に「ロサンゼルスの屈辱」をもたらすこととなった。


落合信彦、生涯最大の恐怖の時
── 集英社ロサンゼルス支局での「魔の刻」


 私が藤原氏に聞いた話の中で一番驚いたのが、氏が落合と面識があったという、これまでまったく未公開だった逸話だ。

 氏と落合が会った場所はどこあろう、集英社のロサンゼルス支局だった。
 落合にとって悪夢以外の何でもない出会いがあった理由は、集英社の西部海岸オフィスマネージャーで、ロサンゼルス事務所所長の奥山長春(ちょうしゅん)氏が、藤原氏の著作の以前からの愛読者であったからだ。

 八四年か八五年のある日、ロスへ来た藤原氏が奥山氏に電話連絡したら、奥山氏のほうから
「明日ちょっとお暇ですか、藤原さんにぜひ会わせたい人がいるから、明日朝ウチの事務所へ来てください」と申し入れがあったという。
 氏の話を聞いてみよう。


 (談)奥山さんが「藤原さん、石油をやっていたオイルマンがウチの雑誌の取材でちょうど来ていますので、明日の午前中お見えになればどうですか。ぜひ藤原さんとお引き合わせしたいんです。きっと二人は話が合うでしょう」と言うので、僕はその日の十時過 ぎに行ったわけです。
 落合は集英社のお抱えみたいにしていろんな本を出していたし、奥山さんは私がカンサスで石油を掘ってた頃から読者で、私がテキサスに進出して石油をやったということで、二人を会わせたかったんでしょうね。


 藤原氏は、会う前から落合の名前は知っていたが、落合を小説家だと考え、あまり彼の本を読んでいなかった。


 (談) その時僕は小説は作り事だと思っていたから、落合の本は一冊か二冊しか読んでいなかったと思う。落合の小説は、読むに債することは何も書いてないし。私にとっては、高校生やサラリーマンレベルが読む小説を書いている売れっ子の作家という認識だった。一冊か二冊ケネディの暗殺についての本は読んだが──「二〇三九年の何とか」っての──、もう一、二冊何か読んでたかもしれない。

 落合の本はアメリカのミッキー・スピレーンと同じぐらいひどい。大薮春彦が真似してそのスタイルでハードボイルドを書いてたが、落合のはそこまで激しくはないけどね。まあ、私が飛行機の中で読み捨てにするアリステア・マクリーンの冒険小説をマネしていたが、とてもじゃないがフォーサイスやアレックス・ヘイリーのレベルには達していない。落合のは高校生向けの冒険小説に毛が生えたようなものだと思ってたんです。

 ──奥山氏の事務所で会ったのは背の低い男であり、それが、落合でした。


 私はこの模様を藤原氏から直接にも聞いた。


 奥菜 落合の第一印象はどんなものでした?

 藤原 妙な男だったよ。

 奥菜 は?

 藤原 「なんで男のくせにハイヒールみたいなものを履いてるんだ」と思ったね。

 奥菜 ……(失笑)。

 藤原 遠くからでもはっきりそれとわかる厚底靴を履いていた。

 奥菜 それは落合の知人の間では有名な話ですね。「板の間から畳の間に上がると背が縮む怪人」って言われてますよ。


 氏が落合に紹介される前に、落合と奥山氏は隣の部屋でこんな会話を交わしていたという。


 (談) 入っていった時には誰もいないみたいで、何か奥のほうでゴチョゴチョ話をしていて、「金がないから八百ドル前貸ししてくれ」とか何か

 ──八百ドルだったか千ドルだったか忘れたけど1、そんな借金の話が私の耳に入ってきたから驚いた。

  誰も出てこないので、「こんにちは、藤原ですが」と大声で言うと、話が一段落したらしく奥山さんが出てきて、後について来た落合を紹介して、「この落合さんが昔石油をやってたオイルマンの人です」なんて言ったわけです。

 何でオイルマンの人が八百ドルぐらいのポケットマネーを、「前貸ししてください」なんて雑誌社に頼んでいるのか不思議だと思った。石油やっている者は千ドルや二千ドルのポケットマネーはいつもポケットに持っているし、クレジットカードは何枚もあるのに、何でそんな貧乏たらしいこと言ってるのかなというのが私の第一印象でしたね。


 私は直後この話を聞いた時、氏に落合の富豪ぶりを伝えた。


 奥菜 落合はインタビューじゃ、オイルマン時代は月収三千六百万円だったとか、その後は二十億円貯金があったとか言ってましたけど。

 藤原 へえ、驚いた。何で貯金が二十億円もある人が、出版社から八百ドル前借りする 必要があるの?


 落合は後に、旅行する時は、現金を「日本円で100万円。それとドルで1万ドル」を持っていくと語っていた。ドルのほうは情報の仕入代だそうである(『週刊宝石』八八年十一月四日号 P194)。この時の落合は、スパイたちへの情報の仕入代を持っていかなかったのだろうか。

 奥山氏はオフィスのソファへ二人を案内して、「落合さんも石油をやってたそうだから、どうですか、二人で」とオイルビジネスについて語り合うことを熱心に勧めたが、「落合は借りてきた猫みたいで、石油のセの字も言わなかった」という。

 偽オイルマンの落合は、本物のオイルマンの藤原氏の前では、しゃちほこぼっているだけでまともに口も聞けず、オイルのことをまったくロにできなかったのだ。

 この時落合は内心「日本にはヘビににらまれたカエルということわざがある。私と藤原氏の関係はまさにそれなんだ」とでも思ったのだろうか?


 (談) 「私は藤原と申します」と落合に自己紹介しました。
 彼には全然石油の話なんかできないし、一生懸命逃げようとしているのがよくわかったからね、かわいそうだし、「側隠の情」ということで、 オイルから話題を変えてあげたわけです。
  私は自分より若い人には、できるだけ激励してあげて、活躍してほしいと思うタイプの男ですから、彼に「落合さんねえ、あんまりあなたの本読んでなくて失礼かもしれな いが、あなたは文章が上手になってきたじゃない。だから、少し経済学の基礎でもきちんと勉強すれば、ポール・アードマンぐらいの作品書けるからね、もう少しその方面の本を読んでみたらどうですか」と、激励したつもりで言ったわけです。そうしたら、彼はぷうっとむくれてしばらくの間だけど沈黙が続きました。
 きっと自分は日本では大家だと持てはやされているので、気分を害したのでしょう。

 アードマンの本は 『1979年の破局』という中東の石油戦争の話で非常におもしろかったから、落合を誉めてやったつもりだったんだけれど、彼はぷうっとむくれて口をきかないんだな。


 藤原さんはこの時の落合の表情を「何とも言えない困惑した顔をしていた」と表現した。落合はその後「五分ぐらい黙ったままだった」という。

 氏と落合のやり取りを見ていた奥山氏は、後になって嘆息し、おもしろい形容をしたという。


 (談)奥山さんも期待外れだったみたいでね。あれだけ集英社の作品の中では派手にやっているので、せっかく落合と僕を会わせたのに、「あまり話が進みませんでしたね」って笑っていた。そして、後で「落合さんが藤原さんの前では 〝借りてきたネズミ〟でしたなあ」って言うから、僕が「何でネズミよ、〝ネコ〟じゃないの」って間いたら「だって、ネコよりもっとひどくて逃げまくっていた」って奥山さんが爆笑していたのが印象的でしたね。


 藤原氏が落合の『ただ 栄光のためでなく』を手にし、そのデタラメぶりに憤慨したのは、これより数年後のことであった。
 氏は最後をこう締めくくってくれた。


 (談) 落合を本物のオイルマンだと誤解している人がたくさんいて、落合の発言を、エコノミストとか評論家とかが新聞や雑誌に「石油問題に精通した落合信彦氏によると」などと引用しているのだから、お笑いです。

  それだけではなくて、もっとひどい公害を落合はばらまいています。それが一番ひどかったのは、落合が書いた外人部隊の本に感動して日本の若い人がフランスの外人部隊に志願し始めたというものです。落合をほったらかしておくと彼の嘘のために若い人が人生を狂わし、害悪の元凶になると思ってウソを暴く責任を感じました。

 藤原さんがここで言う「日本の若者が落合の本を読んで傭兵に志願した」という話は、落合の 『傭兵部隊』(集英社、八二年・『週刊プレイボーイ』の連載をまとめたもの) という作品を読んで、実際に傭兵になる読者がいたということだ。 落合はこの作品の中で、傭兵たちを徹底して恰好よく措いていたから、それに感化される読者がいてもおかしくないのだが。

 しかし奇妙にも、落合は『狼たちへの伝言』の「酒を絶ち、女を絶ち、タバコを絶って100歳まで生きるバカよりは、戦いに生き、死んでいった男たちのほうがよほど輝いている!」の回で傭兵のフランク・キャンパーの生き方を絶賛したが、その次の回である「人を殺し、破壊以外に生み出すことのない傭兵に憧れるより、ビジネスマンとして耐えるほうがはるかに男らしい」では、傭兵に憧れる日本の若者をバカ呼ばわりし、こう書いた。


 最近、日本の若者たちの間で、外人部隊への傭兵志願者が増えていると聞くが、これは、実に悲しむべきことだ。

 9年前、オレは、外人部隊を取材した『傭兵部隊』という本を出した。もし、最近の日本の若い傭兵志願者たちが、オレの本を読んで、「ああ、かっこいい。行っちゃおう」と、非常に短絡的に考えて、傭兵に憧れているんだとしたら、それはとんでもない間違いだ。
 オレの本を普通のメンタリティーで読めばわかることだが、オレはそんなことはこれっぽっちも勧めていない。
 (『狼たちへの伝言③』 P76)


 確かに落合サンは「傭兵になれ」とは書いていないが、「酒を絶ち、女を絶ち、タバコを絶って100歳まで生きるバカよりは、戦いに生き、死んでいった男たちのほうがよほど輝いている!」って言ってんだけどね…。

 余談ながら、その『傭兵部隊』のハッタリぶりが米本和広氏の記事に出ていた。落合は誰でも金を出せば入れる傭兵訓練校を、独自のコネを使って入ったような書き方をしたり、訓練の模様を大げさに書いたりしていたのだ。ここでは訓練の模様における落合描写の嘘を暴いた部分を紹介しよう。


  書店の一角に、事件の背後にはユダヤ、フリーメーソンなどの陰謀団体がいるという陰謀史観による歴史書が並んでいる。この種の本の特徴は、書いてある事柄がほんとうかどうか読者が確かめる、つまり裏を取ることが難しい点にある。

  落合さんの本も、ほんとうかどうか確かめにくいものが多く、その点で陰謀本と共通したところがある。
 (中略)

 だが、事情を知った人がいれば、落合さんの本はとたんに色あせていく。

 『傭兵部隊』の裏側を知ることができたのは、本に出てくる傭兵学校に入学した日本人がいたからである。『USサバイバル・スクール』 の著書・高橋和弘氏だ。同氏によって、落合さんが傭兵学校に入るまでの過程が誇張されたものであることを知った。

 その学校での体験話も随所で首を傾げるものが多い。本の一節と高橋氏の指摘を交互に列記しておく。

「フランクは素早く手にしたAK-47をバラバラに解体した。そしてデイヴに十秒以内に組み立てるように命じた。
十秒もしないうちにデイヴは終えていた」の言うことに耳を傾けていれば、こういう本を書かれなくてもすんだんだろうけどね」と微笑んだ。

 そして、最後に藤原さんが言った言葉が印象的だった。


 (談) ポール・アードマンは非常に優秀なエコノミストで、アメリカの投資銀行の社長としてスイスのバーゼルにいた時、ココアの商品取引に手を出したことが罪になり、刑務所に入った時に書いたのが、先ほど例に出した『オイルクラッシュ』(新潮社)という本です。

 アードマンは実力があったから刑務所の中で経済小説を書いたが、落合はオイルビジネスはおろか外人部隊にも入らなかったのに、若者を惑わす小説をデツチ上げたのは見事だとはいえ、化けの皮がはがれるような底の浅さのために、プロの目にはとてもじゃないがお笑いです。

 私がフランスで買った童話集にギエスタープ・ドレが挿画を描いた、『ミュンシュハウゼン男爵の冒険』というおもしろいホラ話の本があり、同じホラ話でも「ホラ吹き男爵の最後の冒険」ほど奇想天外で痛快だと、芸術性によって全世界の子供たちの古典になる。
 しかし、落合のホラ話はカタカナ文字の羅列と外国が舞台だが、人為的に背伸びして嘘を遠慮がちに並べるので、せいぜい高校生が喜ぶレベルであり、英訳しても英米では誰も読まないマカロニ西部劇ならぬ、ザルそばウェスターンだ。


 
 それにしても、集英社も本物のオイルマンと偽オイルマンを対面させるとは、つくづく粋なはからいをしたものだ。

 落合信彦の「オイルマン伝説」はやはり、伝説であり、ここに完全に終わったと言わざるを得ない。この話全体は、少し前にあった偽石器事件と同じレベルの、程度の低い経歴詐称だった。

 奇しくも私は本章の最後の図として落合本人を描いたイラストを、藤原氏は「ホラ吹き男爵」のイラストを使おうとしていた。このカップリングは、あまりにうますぎるので、二つ並べておこう(図3)。

落合 図



 後には、ただ、落合の詐称した経歴の数々が残るのみである。これは、落合の墓標でもあるのだ。
「落合信彦 オイルマン伝説」ここに眠る。今、私は死せる伝説のために祈ろう。
 南無阿弥陀仏。

p-90

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