生活保護を不当停止 ケースワーカー「働く意欲ない」 東京新聞 H.25/06/20

生活保護を不当停止
ケースワーカー「働く意欲ない」
ケースワーカー「働く意欲ない」
強まる早期就労指導
40代男性、栄養失調で搬送 平塚市が謝罪
東京新聞 2013/06/20

ホームレス支援団体から抗議を受けるまでの約八十日間、二カ月分の保護費が支給されず、男性は栄養失調で救急搬送された。県は十二日、「明らかな法令違反」として市を指導した。(中沢誠)
平塚市が謝罪
生活保護法では、行政側の指導に従わない場合、保護費の支給を停止、廃止することができる。ただし、文書で指導した上で、本人の弁明を聞く機会を設けなければならない。
平塚市のケースワーカーは、いずれの手続きも踏まず、独断で支給を止めていた。
市によると、男性は昨年度から、このケースワーカーに就労指導を受けていた。昨年十月五日、ケースワーカーは再三の指導にもかかわらずハーローワークに通っている形跡がうかがえないとして、窓口で十日分を渡さなかった。
男性は、生活保護が打ち切られたと思い、翌月は受け取りに行かなかった。
男性が住むアパートの不動産会社などによると、家賃滞納が二カ月分に及んだことから、ケースワーカーは昨年十二月六日、いったん十二日分だけを支給。満足な食事をしていなかった男性は二週間後、栄養失調から体調を崩し、病院に救急搬送された。支援団体の抗議を受け、市は入院当日になって十、十一月分を支給した。
男性は脚に血栓ができてお軌、壊疽寸前だった。医師は付き添った知人らに「命の危険もある」と告げたという。緊急手術し、男性は今も治療を続けている。
支援団体によると、ケースワーカーは就労指導の際、「俺に文句があるなら保護費を止めたって構わないんだぞ」と、男性を脅すことがあった、)「就労した証明を持ってくるまで支給しない」と追い返したこともあったという。
支援団体のメンバーは「男性は脚が痛くて、ハローワークに行けない日もあった。就労活動はしていたのに聞き入れてくれなかった」と話す。
平塚市は今年四月、男性に謝罪し市生活福祉課の川田安彦課長は、本紙の取材に「対応が間違っていた。ケースワーカーの言動も行き過ぎたところがあった」と対応に問題があったことを認めた。
ケースワーカー
自治体の福祉事務所で勤務し、福祉関係の相談や支援を行う地方公務員。生活保護の場合、受給希望者の生活実態を調べて支給の可否を判断したり、受給者の就労指導をしたりする。
受給者の急増に伴い、ケースワーカーが受給希望者を窓口で追い返す問題が起きている。
強まる早期就労指導
生活保護費の支給が増え続けている現状を受け、政府は生活保護制度の見直しを進めている。特に働き盛り世代の受給者が増えており、就労支援を強化しているが、平塚市のようなケースが増えかねないと懸念の声も出ている。
厚生労働省は五月、働くことができる現役世代への就労支援方針を都道府県などに通知した。通知では、生活保護費の支給開始から原則六カ月以内の早期就労を目指し、指導強化をうたう。「求人先との面接は月〇回以上」などと就労活動の具体的な目標を文書で提出させ、行動をチェック。六カ月たっても就労が困難なら、短時間・低額な仕事で番いったん就労させるような就労指導を勧めている。
これに対し、全労連の井上久事務局次長は「厳しい雇用情勢を顧みないで早期就労の指導が徹底されれば、質の悪い仕事へ誘導しかねず、生存権が再かされる」と懸念を示す。
生活保護問題対策全国会議(大阪)の小久保哲郎事務局長は事塚市の事例は、就労指導強化の流れに現場が過剰反応した側面もあるのでは」と指摘。他の自治体でも、最近は支給停止や廃止をちらつかせ、追い立てるように就労指導する例があるという。このため「指導強化が進めば、ますます生活保護からの不当な締め出しが増えかねない」と話す。